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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)116号 判決 1954年11月26日

札幌市南五条西八丁目

上告人

稲垣茂三郎

右訴訟代理人弁護士

岩沢惣一

西村卯

百瀬武利

同市北一条西三丁目三番地

被上告人

生駒一郎

右当事者間の土地明渡請求事件について、札幌高等裁判所が昭和二七年一月一一日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は、原判決が上告人の予備的主張に対する判断中、罹災都市借地借家臨時処理法二条に規定する賃借権の対抗力に関し同法一〇条を類推すべきものとする判断の違法を主張するに帰する。しかしながら、原判決の認定する事実は、上告人が本件土地を含む四四坪の宅地を訴外山本好猪、橋本元蔵両名から賃借し右地上に家屋を所有していたが、右家屋は昭和二〇年中防空法に基く建物除却命令により除却され、その際、右借地権は上告人の抛棄により消滅したところ、昭和二一年八月六日、上告人と右訴外両名との間に本件土地を上告人に賃貸する旨の調停が成立した。けれども右の借地権についてはその登記もなく又地上に登記された建物も存しない内、右訴外両名は右土地を昭和二三年一一月一三日被上告人に譲渡したというのである。そして原判決は前記調停による上告人の賃借権につき、右調停成立後である昭和二一年九月一五日施行を見た前記法律第二条の当然適用あることを前提として、所論のような判断をしているものと認められるが、上告人の前記借地権に、同法の当然適用ありとする理由として原判決の判示する所は到底肯認し難く、然らば、右前提たる判示は結局根拠なくして法律の遡及適用を認めるに帰し違法たるを免れない。そして原判決認定の前記事実によれば他に特段の事情がない限り上告人は前記賃借権を以て被上告人に対抗し得ないものといわなければならない。故に所論原判示の当否につき判断するまでもなく上告人が右賃借権に基き被上告人に対し本件土地の引渡を求める請求は理由なきに帰する。従つて上告人の請求を排斥した原判決は、前記違法あるに拘わらず結局において正当であるから、論旨に対する判断を用いず本件上告を棄却すべきものとし民訴四〇一条、九五条、八九条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判長裁判官霜山精一は退官につき署名押印することができない。裁判官 栗山茂)

昭和二七年(オ)第一一六号

上告人 稻垣茂三郎

被上告人 生駒一郎

上告代理人弁護士岩澤惣一、同百瀨武利、同西村卯の上告理由

第一点 原判決は法令の解釋を誤つた違法がある。

原判決は「控訴人が被控訴人にその賃借權を對抗し得るか否かについては処理法を適用せねばならぬ。同法第二条に規定する賃借權がその後にその土地の所有權を取得した者に對し、賃借權の登記或は建物所有權の登記がなくても、對抗できるか否かについては明文の規定はないが、第二条に規定されている優先的性質にかんがみ、また同法第十条を類推して昭和二十一年七月一日から五ケ年内は對抗できるものと解すべきである。それ故控訴人の賃借權は被控訴人に對抗できるものといわねばならぬ。訴外株式会社三信が昭和二十六年七月三十一日本件土地を被控訴人から買受けてその所有權を取得したことは乙第十一号証によつて明らかである。その所有權取得は、昭和二十一年七月一日から既に五ケ年を經過した後のことであるから、控訴人は被控訴人に對して有する賃借權を右訴外会社に對抗できないのであつて、従つて賃貸借関係は右訴外会社に承繼されず」と判示して、第二条に規定されている優先的効力を昭和二十一年七月一日から五ケ年内といわれているが、これは解釋が誤つている。

この第二条に基く賃借權の優先的效力については、本条第一項本文はこの意味を「他の者に優先して………その土地を賃借することができる」と表現している。而してこの優先的效力の内容はこの賃借權は對抗要件を具備しなくても、その設定を受けた時對抗要件を具備したと同一の對抗力を有するのである。即ち賃借權の設定後、その土地について對抗要件を具備した土地所有權の讓渡又は抵当權の設定があつても賃借權の取得を以て、この土地讓受人及び抵当權に對抗し得る。故に土地讓受人は所有權と共に賃貸人たる地位も同時に承継する。

而してこの処理法第二条による賃借權の對抗力を有する期間は、第五条に定められた賃借權の存続期間内であるから賃借權の設定された時から進行して十年である。故にこの存續期間経過後賃借權が更新された場合は賃借權自体の登記か又は地上に築造された建物の登記のない限り更新以後その土地に權利を取得した第三者に對抗し得ない。

斯のように処理法第二条による賃借權は設定された時から十年間對抗力を有するのであるのに、原判決はこれを「第二条に規定されている優先的性質にかんがみ、また同法第十条を類推して、昭和二十一年七月一日から五ケ年内は對抗できるものと解すべきである」と判示して對抗力の期間を第十条を類推して五年と解したのであるが、この第二条の對抗力は同条第一項本文の「他の者に優先して…………その土地を賃借することができる」という文言から当然みちびき出される對抗力であつて、第十条に俟つて對抗力があるという訳でない。故にこの對抗力の期間は第二条の規定によつて設定された賃借権の存續期間である。而してその存續期間は第五条によつて十年であるからその對抗力も亦十年である。然るに原判決はこれを五年と解したのであるから法令の解釋を誤つた違法があつて破毀を免れない。

同趣旨、原氏、青木氏、豊水氏(罹災都市借地借家臨時処理法解説三三頁)

以上

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